青森地方裁判所弘前支部 昭和34年(ワ)174号 判決 1960年1月29日
原告 佐藤寅市
被告 国
訴訟代理人 滝田薫 外二名
主文
被告は原告に対し金十七万五百十二円及びこれに対する昭和三十四年八月二十二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うこと。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、
「一、原告は佐々木俊次郎に対し昭和三十一年二月十七日貸付(準消費貸借による)金十三万円、弁済期同年十二月十七日、利息年一割八分(毎月々末払)、延滞金年三割六分の約の債権を有し、右貸付当日佐々木は右債権担保のため同人所有の浪岡町大字浪岡字浅井百二十五番三号所在の木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建劇場一棟建坪百四十八坪五合二階三十二坪に抵当権を設定した。
二、ところで、右佐々木は前記の債務を弁済もせず、抵当権設定登記もしないので、原告は昭和三十一年二月二十日、青森地方裁判所弘前支部に申請し(同庁昭和三十一年(モ)第三九号)、抵当権設定登記請求権保全の仮登記仮処分決定を得た。
そして同裁判所の嘱託により前記建物について、青森地方法務局浪岡出張所昭和三十一年二月二十三日受付第三八七号を以つて、右抵当権設定登記請求権保全の仮登記がなされた。
三、一方原告は佐々木を相手方として同裁判所に抵当権設定登記請求の訴を提起し、同庁昭和三十三年(ワ)第一〇一号事件として係属したが、同年八月二十九日原告勝訴の判決言渡があり、該判決は同年九月二十九日確定するにいたつた。
四、原告は右確定判決に基づき前記出張所に対し本件抵当権設定の本登記を申請した。ところが、先の仮登記については当該登記官吏の過失により、該抵当権の内容を記載しなかつたため、前記仮登記による順位を保全しての本登記は不可能として、右申請は却下された。
五、ところで前記仮登記後、右本登記申請までの間、本件建物について債権者日本興産株式会社被担保債権額金七十万円の五番抵当権、債権者同会社被担保債権極度額金三十万円の六番根抵当権の各設定登記がなされた。従つて原告としては、その後順位に抵当権を設定しても効果がなかつた次第である。
六、そして右日本興産株式会社はその抵当権実行のため本件建物の競売申立をなし、青森地方裁判所弘前支部昭和三十三年(ケ)第一四七号事件として競売手続が進められた結果、金四十万円を以つて競落となり昭和三十四年五月十四日の配当期日において
手続費用として金一万千五百四十五円、
黒石税務署に金七万六千二十八円、
浪岡町に金十四万千九百十五円、
右会社に金十七万五百十二円
と配当せられたのである。
七、若し前述の仮登記が正確に記入されていたとすれば、原告は前記日本興産株式会社に優先して、少くとも同会社に配当せられた金十七万五百十二円の配当を受け得た筈であるが、前掲出張所の当該登記官吏の過失により、これを失い右同額の損害を蒙つた次第であるから、国家賠償法の規定に基づき、被告に対し右損害の賠償を求めるため本訴に及んだ。なお、佐々木は本件建物以外になんらの資産なく、弁済能力がないものである。」
と述べた。
被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、
答弁として、
「原告の主張事実中、
第一項は不知。
第二項前段は不知、同後段は認める。
第三項は不知。
第四、五項は認める。但し、第五項中、原告がその後順位に抵当権を設定しても、効果 がなかつたとの点は争う。
第六項は不知。
第七項は争う。」
と述べた。
立証<省略>
理由
証人佐々木俊次郎の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告は佐々木俊次郎に対し、昭和三十一年二月十七日貸付(準消費貸借)の金額十三万円、弁済期同年十二月十七日、利息年一割八分(毎月々末払)、延滞金年三割六分の約の債権を有していたこと並びに右貸付当日該債権担保のため、佐々木は原告に対し、原告主張の建物に抵当権を設定したことが認められる。
そして原告が昭和三十一年二月二十日、青森地方裁判所弘前支部同年(モ)第三九号仮登記仮処分申請事件において、右建物につき前記債権担保のための抵当権設定登記請求権保全の仮登記仮処分決定を得たことは、成立に争のない甲第二号証により認めることができ、同裁判所の嘱託に基づき、青森地方法務局浪岡出張所において昭和三十一年二月二十三日受付第三八七号を以つて抵当権設定登記請求権保全の仮登記がなされたことは、当事者間に争がない。
然して成立に争のない甲第三、四号証によれば、原告が佐々木を相手方として同裁判所に右抵当権設定登記請求の訴を提起し、同庁昭和三十三年(ワ)第一〇一号事件として係属したが、同年八月二十九日原告勝訴の判決言渡があり、該判決が同年九月二十九日確定した事実が認められ、原告が右確定判決に基づき、前記出張所に前記の抵当権設定の本登記を申請したところ、さきになされた仮登記において当該抵当権の内容の記載がなく、ためにその順位を保全しての登記は不能であるという理由で右申請が却下されたことは、当事者間に争がない。
次に前記の仮登記がなされた後、右本登記申請の時までに、本件建物につき債権者日本興産株式会社、被担保債権額金七十万円の順位五番の抵当権並びに債権者同会社、被担保債権極度額金三十万円の順位六番の根抵当権の各設定登記がなされるにいたつたことは当事者間に争がなく、同会社の申立により本件建物について同裁判所昭和三十三年(ケ)第一四七号不動産競売事件として競売手続が開始され金四十万円を以つて競落された上、昭和三十四年五月十四日午前十時の配当期日において、競売手続費用を差し引いた残額が原告主張のとおり各債権者に配当された事実は、成立に争のない甲第七号証第九号証により認めることができる。
そこで考えてみるのに、前記の仮登記において抵当権の内容の記載を遺脱し、ために後日原告が確定判決に基づく太登記の申請をなした際に、右仮登記の順位を保全して本登記をなすことを不能ならしめたのは、同出張所における当該登記官吏の職務上の過失によるものというべく、原告は右本登記が不能となつた結果、自己の抵当権を以つて設定の時期においてこれより後である日本興産株式会社の抵当権に優先せしめることができず、若し本登記が可能であつたならば右会社に先だつて本件建物の競売代金から配当を受けたであろう金額を受け得ず、右同額の損害を蒙つたものというべきである。そして右金額が金十七万五百十二円であることは前記成立に争のない甲第七号証により明らかであり、原告がその抵当権の行使により満足を得べき債権額が右金額を超えるものであることは計数上明らかである。
してみると、右登記官吏は、その職務を取り扱うについて、過失により原告に対し金十七万五百十二円の損害を与えたものといわなければならないから、被告国としては国家賠償法第一条により原告に対しこれが賠償の責に任ずべきものである。
よつて原告が被告に対し右金十七万五百十二円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三十四年八月二十二日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は全部正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 村上守次)